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<理と気>の話

2019年9月22日
習熟したい人のための記事の続きです。昨日の記事は,<この4枚を見てどう思う?>からはじめました。
<理と気>の話_f0213891_08592606.jpg
<どう思う?>より,染め方が気になった人もいるかもしれません。
ヒント。
この4枚は次の4つの染め方のそれぞれどれかです。
<理と気>の話_f0213891_10125438.jpg
解説は書きません。習熟を目指す人であれば染め方はこの図でわかると思います。
イロハニはそれぞれABCDのどれか考えてみてください。
***
この<考える>だと取り組みやすいかもしれません。それは,<答がある>と予想できるからです。
それに対して<思う>の方は,はっきりしないというかなんとなくあいまいなので気持ちが落ち着かないのかもしれません。
わたしが<習熟段階でしていること>を書いておきます。<習熟したい>という人には役に立つかもしれないというか選択肢として役に立つかもしれません。
***
まず,はじめに<おりぞめで習熟する>とはどのようなことかを書いておきます。<すばらしい作品ができるようになる>ということでしょうか。それはちがいます。すばらしい作品は初心者か初心者でないかは関係ありません。経験も年齢も性別も国籍も障害のあるなしも関係ありません。おりぞめは人を選びません。ですから,<習熟したら人から褒められる作品ができる>と思っている人の希望には応えられません。
<習熟する>ということは<思ったことをやってみる手を持っている>,別の言い方をすれば,意図を持って,その意図が実現する,あるいはその意図を確かめることができることが増えることです。<ただ作る>だけから<思いを形にする手を持って作る>ことが増えていくことを<習熟>とわたしはイメージしています。ですから<習熟>の前には<言われた通りやってみる>という<練習>があり,<習熟>の後には,思いと手に一体感のある<熟練>につながっていきます。
***
さて,ここからが本題。
「理と気」の話
習熟するために必要なこととしてわたしは<理と気>があると思っています。
<理>というのは,「こうすればこうなるという理屈」で,<気>というのは,「よく分からないけれどなんとなくそんな気がする」というイメージです。
4つの選択肢の染め方を見て,染め紙を予想するには,<なんとなく>という気でもオーケーですが,こんな風に染めているからこう染まるはずだという理詰めでもオーケーです。
こう書くと,<理>と<気>だと<理>の方がいいと思ってしまう人もいるかもしれません。
わたしは,<理と気の両方が必要>,習熟の段階ではむしろ<気を働かせることが大切>と思っています。
<理と気>について考えたり,使ったりするようになったのは,仮説実験授業を創った板倉聖宣さんの<理と気の話>の講演記録を読んでからです。その講演は1989年にされたものです。
その講演記録全体を読むことは今では難しいですが,その一部を読むことは可能です。
仮説社発行の『板倉聖宣の考え方』という本があります。
この本は,
板倉聖宣さんの著書や講演から,ルネサンス高校グループ名誉校長の犬塚さんが30のテーマを抜粋して紹介。
それぞれのテーマについて,犬塚さんと明星大学特任准教授の小原さんが分かりやすく解説を添えています。
様々な時代の板倉先生の言葉は,今読んでも色あせるどころか,新鮮な気持ちにしてくれます。
ぜひ,色んな時代の先生に会いにいってみてください。
と紹介されています。

30のテーマの中の一つに
14 「理気論」と仮説実験授業
というのがあり,一部が掲載されています。
これは<理気>の論ではなくて,<理と気>の論です。
このテーマだけでなく,いろいろなことについて,目からウロコの話が載っていますので,読んでみるも選択肢にしてみてください。
さて,話を戻します。

誰かの模倣をするときは頭で考えます。しかし,創造的に考える時は「気」でいきます。〈身体全体がそんな感じがする〉ということを大事にする。だから私は「なんとなく」というのを大事にする。創造性というのは,そういうものを大切にしなければ出てこないんじゃないか。仮説実験授業で「なんとなく」を大事にするのはそのためです。
もっと引用したいのですが,これぐらいにしておきます。ぜひ,この本の文章だけでも読んでみてください。
<習熟>段階では創造性が必要になってくるとわたしは考えています。<創造性>と言えば,多くの人は<今までにないこと>と考えていますが,わたしはまずは身近に考えればいいと思っています。
一番身遠で考えれば,それは<人類初>です。今まで人類史上,誰もしたことがないこと。多くの人は創造性といえばこれをイメージしますが,わたしは,<わたし史上初めて>のことも創造性と考えることにしています。それは<人類初ではないけれどわたしには初めて>ということです。<わたし初>と<人類初>のあいだにはいろいろあります。<家族初><仲間初><会社初><地域初><日本初>などなど。
それらすべてを<今までにない>ということで<創造性>とまずは考えています。
気をつけなければならないのは,<わたし初=人類初>と単純に考えてはいけないということです。それは調べてみないとわかりません。
話を戻します。
おりぞめを初めてするときの楽しさは<わたし初>,言い換えれば,今までに経験したことのないことがたのしいのです。ですから,していることは<言われた通り>なのですが,わたし自身にとっては<初めてで創造的な体験>となります。
練習段階ではそれでいいと思っていますし,おりぞめの場合はそうでなければならないと思っています。言われた通りにして楽しい,先ずはそこからはじめたいと思っていますし,それで終わってもいいと思っています。
さらに習熟段階に進むためには,<わたし初>を自分から作り出していく段階になります。その時に<なんとなくそう思う>ということが大切な働きをします。
染め紙4枚を見て,<なんとなく,これは紫がはっきり出ているけれど,そちらは出ていない>とか<色がうすい>とか<濃い>とか,そんなことがきっかけになって,どうしてだろうとか<理>で考えていくきっかけになるかもしれません。
ですから<理か気か>ではなくて<理も気も>なのです。
しかし,4枚の染め紙を見て,思ったり気づいたことがすらすらと5つ出てくる人は少ないと思います。それは,思ったり気づいたりしても<これでいいのだろうか>とブレーキをかけてしまうのです。
ブレーキがかかることを非難する気はありません。ただ,<気>を意識することで世界が広がるかもしれないということは書いておきます。そうすれば,ブレーキペダルが緩むかもしれません。
だからと言って<気>のアクセルをただ踏み込めばいいとも思っていません。<理と気>で<理>の方をすぐれているというはちがうように<気>は間違いないというのも違います。<理と気>をそれぞれ選択肢として,確かめていくということです。アクセルもブレーキも大切ということです。ただ,今を生きている多くの人は<理>に走りやすいので,<気>にもっと気を配った方がいいと思います。
もし,<気>がよく働く人は,<理>も取り入れるとより創造的にたのしく生きることができるかもしれません。
*******
ここからは全くの余談です。
わたしが板倉さんの<気>の話を読んで,とても納得して使い始めたのは,養護学校に勤めていたからだと思います。
わたしは1985年に養護学校に移り,板倉さんの講演記録に出会うのは1989年以降です。
出会ったときに<理>だけでなく<気>に着目すること,そして,<気>を本当に大事にすることを学んだお陰で生徒たちとの付き合いも大きく変わった気がします。
それまでも,理屈ではなくて,イメージを大切にしていたのですが,この<理と気>の話は,わたしを勇気づけてくれた気がします。
エピソードを一つ書いておきます。
作業で粘土室に入ったとき,生徒が怒りだしました。夏だったので,ほこりぽく暑い部屋が嫌だったことはすぐに想像できました。
20年以上前なので,クーラーなどない時代なので,「夏は暑いのが当たり前,我慢して」と言いたくなり,「怒っても仕方ない」と説得したくなります。しかし,<理と気>を意識しているわたしは<気>に走った選択肢を作り,やってみました。
「暑いなあ,よし,分かった,これから校長先生に言いに行こう」といったのです。そんなこと実際にできるかとか,そんなことではなくて,気持ちの上では,何とかしてほしいと思ったことを伝えたのです。そうすると,その生徒さんからすれば,気に共感してくれたという感じを持てたのか,とにかく,怒り方が少なくなりました。わたしは,下敷きなどで風を送るなどして,なんとか作業の時間を乗り切ったことがあります。<気を大事にする><気が済むように>というのはわたしの選択肢の一つになっていました。
***
折り染めに出会ったのは1999年ですが,<理と気>はおりぞめ研究にとっても大切なキーワードでした。<こうすればいい>とわかっていることはその通りにしますが,どうしていいかわからないとき,<なんだかわからないけれどなんとなくそんな気がする>という自分も大事にして過ごしていることは書いておきます。<理か気か>ではなくて<理も気も>はわたしにとっては大事な指針です。
























by orizome | 2019-09-22 12:36 | その他 | Comments(0)

紙に染料をつけて染めるものづくりの<おりぞめ>噺。ものづくりはたのしさつくり。おりぞめ染伝人(山本俊樹)メールアドレス orizome●live.jp
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