分けても分断はしない

2021年3月2日

昨日，観た映画は『あのこは貴族』。20代後半の東京のお嬢様の華子（門脇麦さん）と地方出身で挫折を味わっている美紀（水原希子さん）の住むセカイのちがう二人が出会う話です。わたしにはこの二人に，華子の親友・逸子（石橋静河さん）と美紀の親友・里英（山下リオさん）を加えた四人の女性を中心にした話でした。

映画として面白かったです。何度も出てくる〈雨のシーン〉，移動手段としてのタクシー・自転車・徒歩・車を運転するという使い分けが物語を形作っているのが印象的でした。ネタバレになるかもしれないけれど，美紀と里英の自転車の二人乗りと逸子を乗せて華子が運転する車というのが〈うまい〉（なんで上から目線とツッコんでおきます）と思いました。

特に，華子と美紀の出会いを作った逸子が印象的でした。出会うときの状況を考えればこの二人が喧嘩別れをしても当然なのに，〈分断を嫌う〉逸子によって仲良くなってしまうのです。

＊＊＊

逸子の行動・言動によって思い出したことがあります。

支援学校の教室は4面の壁に囲まれています。標準的な造りは，その一面は出入り口のある廊下に面した壁で窓があります。その反対側は外に向かった窓になっています。残りの向かい合う2面の一面は黒板で教卓があり，子どもたちはそちらを向いています。子どもたちの背中側に壁があり，だいたい掲示できるようになっていたり，子どもたちのモノを入れる棚があったりします。

一時，わたしのクラスの黒板側の壁と掲示側の向かい合う壁に短い同じ言葉を書いた貼り紙をしていたことがあります。

何だと思いますか。

「あなたは〇」

〈あなたはまる〉と読み，簡単に言えば〈あなたはあなたのままでいい〉ということです。

黒板の上に貼ることで子どもたちに向かってのわたしのメッセージです。掲示側は子どもたちに向かうわたしに見えるように置かれたメッセージです。

先生と子どもという立場で，先生は○で子どもたちは×となるのはなく，子どもたちは〇だと意識すること，そして，うまくいかないとき，自分に×をつけたくなります。その時に，あなたは〇と自分自身に思い起こさせるのです。

これ，二つの考えの共同作です。

一つは，〈罪を憎んで人を憎まず〉。行動としてはうまくいかないこともある，けれど，人間に×をつけない。

もう一つは，教室の中でうまくいかないことが起きたとき，〈子どももわたしも悪くない，障害児教育の研究が遅れているだけ〉と考えて，その時のわたしができることを考えて実行する。

このことが逸子の言葉で，わたしと子どもを分断することを避けるためのわたしの方法だったと思いました。

＊＊＊

先生と子どもはちがうと分けることは必要だと思います。だからと言って，分断するのはちがうと今のわたしは自覚できました。

〈おりぞめ〉と言ってもそこにはいくつものセカイがある気がします。

わたし自身，二つのセカイを行き来しているのでよくわかります。

一つは，わたしの出会いとなった〈教材〉としての折り染め。障害児教育の場で折り染めの有効性に気づき，〈たのしい授業〉として積み上げてきたことはわたしにとっては大きいです。

もう一つは，〈たのしみ〉としてのおりぞめ。今では，学校現場を離れて，個人のたのしみとしておりぞめを広げているわたしがいます。

この二つのセカイを結び付ける言葉として，〈ものづくりはたのしさづくり〉ということを意識しています。

しかし，もっと違うセカイがあってもいいし，あるだろうと思っています。

〈アート〉としてのおりぞめはもちろん，〈職業〉としてのおりぞめだってあるかもしれません。

わたしはそれらを分けることはあっても，分断したくないと思っています。といっても，現実のすべてがうまくいくとは限りませんが，その時に分断をしないことを心がけて行動している逸子を思い浮かべることにします。

＊＊＊

わたしは染伝人として研究をしています。

今は，ステンドおりぞめから始まり，単色の紫の染料が墨と同じように働くことに気づきました。そして，混色の紫も乾かしてからだと同じようになることに気づき，とりあえず，黄・ピンク・赤・青・紺の5色の単色でX格子の畳み違えのリダイを染め方の違いでどうなるかをいろいろやってみました。その結果。

15の染め方で5色のX格子と墨染のX格子の染め紙を作ってサンプルにすることができました。

このようなのを作るのは，ヒトコトで言えば〈再現性〉です。

〈こうすればこうなる〉ということを知ることでわたしが同じような染め紙を作ることができるということ。そして，他の人に伝える時のための研究材料なのです。わたしにできるという再現性と他の人にもできるという再現性を確立しようとしているのです。

これは，『あのこは貴族』という映画を観る前に完成させていました。

映画を観て，違うセカイということで，再現にこだわらない遊びに取り組んでみることにしました。

目の前にある染め紙を見て，それをリダイするのです。今のわたしの技でどのようなリダイができるかを考えて実作してみるというわけです。

染めてみました。どのような染め紙をどのようにリダイしたかわかりません。というか，分かろうとする気になりません。

「おー，こんなのができた」というだけのただの遊びです。

4枚を正方形に並べて，「quarter㎡（クォーター平方メートル〉」というタイトルをつけました。

2組作りました。あと二組作って正方形に並べて「One㎡」という作品にする予定です。

研究的に何かを目指しているわけではありません。ただの遊びです。研究も遊びも分断することなく楽しみます。

（と言いつつつけくわえをしておきます。最後の2枚。実は違う染め紙に同じ染め方をしているのです。青味がかっていた染め紙と赤味がかっていた染め紙に同じ染め方をしたらどうなるかなとやってみたのです。よく見れば，十字の真中に白く光ったひげ状のものが見えます。これはどんな染め紙なんだろうと気になるので，残しておくことにします。遊びなのに研究。まあ，こんなこともあるやろうということで。）

こんなことをしてしまうと，色々なX格子の畳み違えにある染め方をすればどうなるか，と同じように染め紙と染め方の組み合わせの研究がしたくなります。

まあ，そこは好きにするということで。

遊びが研究になり，研究が遊びになり，また遊びが，，，，，，

やっちゃえ。